辞めると決めた。次も決まった。あとは、伝えるだけ。
……なのに、言えない。
朝、上司の席を横目で見て、今日は忙しそうだから明日にしよう、と思う。明日になると、また別の理由が見つかる。そうやって一週間が過ぎる。
やることは「辞めます」の一言だけなのに、その一言がいちばん重い。
この記事は、そこで止まっている人のために書きました。誰に、いつ、どう伝えるか。そして引き止められたとき、どう返すか。順番と言い方さえ決まっていれば、あの重さはかなり軽くなります。
順番を間違えると、余計にこじれる
まず、いちばん大事なところから。
最初に伝えるのは、直属の上司です。ここは例外がほぼありません。
仲のいい同僚に先に打ち明けたくなる気持ちは、よく分かります。自分の中だけに置いておくのがしんどいので、誰かに言ってしまいたくなる。でも、これをやると事故ります。
同僚から先に話が広がって、上司の耳に人づてで入る。上司からすると「自分だけ知らされていなかった」という状態になります。そこから先は、辞めること自体より、その伝わり方のほうが問題になってしまう。手続きも、感情も、こじれます。
ここがスタートです。あなたが自分の判断で動くのは、基本的にここまで。
2 あとは、上司の指示に従う
人事や部長への連絡は、通常は上司の仕事です。あなたが直接言いに行く必要はありません。「退職届はいつ出せばいいですか」と聞いて、指示どおりに動けば十分。勝手に上へ話を通すと、上司の顔を潰すことになります。
3 同僚に伝えるのは、上司と相談してから
いつ、どこまで公表するかは、上司が決めることが多いです。自分から先に漏らさないでください。
4 取引先への挨拶は、引き継ぎの一部として
これは順番というより、引き継ぎの段取りの話です。後任が決まってから、上司の指示で動きます。
ポイントは一つ。自分の判断で動くのは、上司に伝えるところまで。そこから先は、指示を待つ。これで、たいていの事故は防げます。
上司との関係が良くない場合も、順番は変わりません。むしろ関係が良くないときほど、順番を守っておいたほうが安全です。「あいつは筋を通さなかった」という理由を、相手に渡さずに済むので。
いつ伝えるか。タイミングの目安
次の内定が確定してからが原則です。口約束ではなく、条件が書面で出てからにしてください。ここが曖昧なまま伝えると、引き止めに揺れたときに戻れなくなります。
時期の目安は、退職希望日の1〜2か月前。就業規則に「1か月前まで」などの規定があることが多いので、先に確認しておいてください。
就業規則に「2か月前まで」と書いてあっても、一般的には民法の規定が優先されると解されていて、会社がそれを盾に退職を拒むことはできません。
とはいえ実際には、就業規則の期間に沿って進めるほうが円滑です。この知識は「規則があるから辞められない」と言われたときの、心の支えとして持っておいてください。使わずに済むのが一番です。
時間帯は、就業時間内。始業直後や、締め切り直前の忙しい時間は避けます。おすすめは、業務が落ち着いた午後か、終業前。
伝え方は、いきなり本題ではなく、こう切り出してください。
実際に伝えるときの、言い方
場が用意できたら、伝えます。ここでのポイントは、「相談」ではなく「報告」の形にすることです。
「辞めようと思っているのですが、どうでしょうか」と相談の形にすると、上司は説得する余地があると受け取ります。そこから面談が何度も続くことになります。
「一身上の都合」で十分です。不満を並べると、そこが交渉材料になります。「その不満なら解消できる」と言われて、話が長くなるだけなので。
② 決まっていることを、先に伝える
「次が決まっている」「意思は固まっている」。この2つが入るだけで、引き止めの余地がかなり減ります。
③ 引き継ぎに触れる
上司がその瞬間いちばん心配しているのは、あなたの人生ではなく、業務が回るかどうかです。そこに先に答えると、話が前に進みます。
そして、退職届はこの場では出しません。まず口頭で伝えて、上司の指示に従って提出するのが順当です。いきなり書面を突きつけると、対立の構図になります。
引き止められたときの、パターン別の返し方
伝えたあと、多くの場合は引き止められます。ここで揺れる人が本当に多いので、返し方を先に用意しておいてください。
①「給料を上げるから」「異動させるから」
いちばん揺れるパターンです。ただ、冷静に考えてほしいことがあります。その条件、辞めると言わなければ出てこなかったものです。
本当に評価されていたなら、辞意を伝える前に提示されていたはずです。それに、条件を飲んで残った場合、「一度辞めようとした人」という記録は残ります。その後の昇進や配置で、どう扱われるかは分かりません。
②「今辞められたら困る」「無責任だ」
これも定番です。ただ、はっきり言っておくと、困るのは会社であって、あなたの人生の責任を会社は取ってくれません。
そして、人が抜けても回るように設計するのは、本来は会社の仕事です。あなたが背負うことではありません。
③「後任が決まるまで待ってほしい」
これは、一番よくある足止めです。後任が決まる保証はどこにもないので、無期限に延びる可能性があります。
なお、後任が見つからないことを理由に退職を拒むことは、会社にはできません。人員の補充は会社の責任であって、あなたが背負うものではないからです。「急に辞められて困った」という理由だけで損害賠償が認められることも、原則としてありません。
④ 何度も面談が設定される
一度で終わらないこともあります。同じ話を繰り返されるのは消耗しますが、対応は同じです。
毎回、同じことを、同じトーンで返してください。感情的にならず、決定事項として繰り返す。説得できないと分かれば、たいていは止まります。
それでも執拗に続く場合や、退職届を受け取ってもらえない場合は、退職の意思を書面で伝える方法もあります。記録が残る形にすると、話が動くことが多いです。
揉めないために、絶対にやらないこと
引き止めをかわす以前に、これをやると全部が難しくなる、というものがあります。
言いたいことは山ほどあると思います。でも、ぶちまけても何も変わりません。変わるのは、残りの在籍期間の居心地だけです。
❌ 他社と比較しない
「向こうのほうが給料がいいので」と言うと、条件闘争になります。
❌ 同僚を巻き込まない
「実は◯◯さんも辞めたがっている」といった話は、絶対に出さないでください。
❌ 最終出社日まで、仕事を投げない
ここが雑になると、それまでの評価が全部上書きされます。転職先が同業なら、噂は普通に届きます。
辞めると決めた後の数か月は、意外と長いです。その期間を穏やかに過ごせるかどうかは、伝え方でほぼ決まります。
それでも切り出せないなら
ここまで書いておいて、逆のことも書きます。
順番も言い方も分かっているのに、どうしても言えない。上司の顔を見ると声が出ない。そういうこともあります。
その場合は、無理をしないでください。心身が限界に近いなら、代行という手段もあります。
ただ、「気まずいだけ」で止まっているなら、一度言ってしまったほうが早いです。伝える前の一週間の重さと、伝えた後の重さを比べると、たいてい前者のほうが重いので。
「来週の水曜、午後」くらいまで決めてしまう。日付が決まると、迷う余地が消えます。

言ってしまえば、あとは手続きが進むだけです。
あの一言のために使っている気力を、もう次のほうへ回していい頃だと思います。


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