「転職してよかった職業」で検索すると、たいてい同じ顔ぶれが出てきます。
IT系、事務職、公務員、インフラ。ランキング形式で並んでいて、なんとなく読んで、結局こう思うわけです。
「で、自分はどれを選べばいいんだ」と。
先に言っておきます。あのリスト、そんなに役に立たないと思います。同じ「事務職」でも、片道1時間半かけて毎日残業する事務職と、家から15分で定時に帰れる事務職では、まったく別の仕事です。職業名は同じなのに、生活は正反対になります。
実際、「転職して正解だった」と言っている人の話をよく聞いてみると、職業名の話をしていないことが多いんです。もっと即物的な、数字の話をしています。
今日は、その数字の話をします。電卓で3分あれば終わる計算です。
年収を、拘束時間で割ってみる
やることは単純です。年収を、実際に拘束されている時間で割ってみる。いわゆる時給換算です。
ただし、ここでいう「拘束時間」には、通勤も含めます。家を出た瞬間から、帰り着くまでが、仕事に取られている時間だからです。満員電車に立っている1時間は、自由な時間ではありません。かといって、その1時間に給料は出ていません。
この計算をすると、求人票の年収だけを見ていたときとは、まるで違う景色が出てきます。具体的に、やってみます。
労働:8時間 × 20日 = 160時間
残業:20時間
通勤:往復2時間 × 20日 = 40時間
労働:8時間 × 20日 = 160時間
残業:0時間
通勤:往復40分 × 20日 = 約13時間
年収は50万円下がっています。求人票だけを見れば、間違いなく「年収ダウンの転職」です。
でも時給に直すと、上がっています。しかも年間で560時間、自分の時間が戻ってくる。1日8時間に換算すると、70日分です。
この計算をすると、判断が変わる
ここで大事なのは、「年収が下がってもいい」という話ではありません。判断の材料が1つ増える、という話です。
年収という数字は、求人票に大きく書いてあります。だから、どうしてもそこだけで比べてしまう。でも実際に自分が支払っているのは、お金ではなく時間です。その支払いの大きさは、求人票のどこにも書いてありません。だから、自分で計算するしかありません。
年収が50万上がって喜んで入ったら、残業が月40時間増えていた…。増えた50万円は増えた労働時間の対価でしかなく、時間単位で見れば、むしろ安く働かされていることになります。
⭕ 年収が下がったのに、時給は上がる転職
さっきの例です。額面は下がっても、時間あたりの効率は上がっています。
「転職して正解だった」と言っている人の多くは、後者を引いています。だから額面が下がっても後悔していません。感情の問題ではなく、実際に得をしているからです。
通勤時間は、静かに一番大きい
計算してみて、たぶん一番驚くのが通勤です。
→ 年間 480時間
→ 1日8時間で割ると 60日分
働く日数で数えると、年に3か月ぶん、無給で拘束されている計算になります。
しかも通勤時間は、残業と違って手当がつきません。通勤手当は出ますが、時間の代金は出ない。にもかかわらず、その時間は自由に使えない。読書やスマホはできても、満員電車で立ちっぱなしなら、体力は削られています。
そして通勤は、毎日確実に発生します。残業は繁忙期だけかもしれませんが、通勤は例外なく毎日です。だから、時給換算にじわじわ効いてきます。
求人を見るとき、年収は真っ先に確認するのに、通勤時間は「まあ、通えるか」くらいで済ませていませんか?金額で見ると、こっちのほうが大きいことは、普通にあります。
戻ってきた時間を、どう使うか
ちなみに、その戻ってきた時間の使い道は、人それぞれです。
単純に寝る。家族と過ごす。資格の勉強に充てる。中には、その時間で始めた副業が、少しずつ育っていく人もいます。時間が空いて初めて、そういう選択肢が現実に乗ってくるんです。

ただし、これは結果論です。「副業で稼げるかもしれないから、年収ダウンを受け入れよう」という計算をすると、たいてい失敗します。
副業が育つかどうかは、やってみないと分かりません。ちなみに私も副業をやっていましたが、うまくいくものばかりではありませんでした。
だから、目的にするのは「時間が戻ってくること」そのもので十分です。その時間で何をするかは、戻ってきてから決めればいい話なので。
計算に、入れておくといい項目
もう少し正確にするなら、次の項目も足し引きしてください。
□ 残業時間
□ 昼休みに拘束される場合(電話番など、休めていないなら労働時間として数える)
□ 持ち帰り仕事、休日の連絡対応
□ 付き合いの飲み会代(断れないものは、実質のコスト)
□ 制服やスーツなど、その仕事のために必要な出費
□ 在宅勤務の日数(通勤時間がまるごと消えるので、時給換算に効きます)
□ 社食など、生活費が下がる仕組み
このあたりまで入れると、「額面は高いのに、なぜか生活が苦しい会社」の正体が見えてきます。手取りが多くても、時間と経費を持っていかれていれば、残るものは少ないので。
それでも、時給換算だけで決めてはいけない
ここまで書いておいて、逆のことも言います。時給換算は、判断材料の一つでしかありません。
たとえば、時給は高いけれど、5年後に何のスキルも残らない仕事。今は効率がよくても、次に動くときに売るものがありません。逆に、今は時給が低くても、数年後に単価が上がる経験を積める仕事もあります。
今この瞬間、割に合っているかどうか。
②数年後の自分 → 何ができるようになっているか
次に動くとき、売れるものが増えているかどうか。
この2つを両方見ると、判断はかなり固まります。
「転職してよかった職業」を職業名で探していたときには、どちらも見えていなかったはずです。
答えは職業名ではなく、条件だった
ここまでの話をまとめます。
「転職してよかった」と言っている人が手にしているのは、特定の職業ではありません。時間あたりの効率が上がった状態です。答えは職業名ではなく、条件のほうにありました。
だから、探すべきは職業名のランキングではなく、自分にとって時給換算が上がる条件です。通勤が短い。残業が少ない。在宅がある。無駄な拘束がない。そういう条件が揃った仕事は、職種が何であれ「してよかった」に近づきます。
2 年収 ÷(拘束時間 × 12)で、今の時給を出す
3 気になっている求人でも、同じ計算をしてみる
ただ、この計算には弱点があります。分母になる拘束時間が、求人票からは正確に分からないことです。「残業は月20時間程度」と書いてあっても、実態が違うことは普通にあります。在宅可と書いてあっても、実際に使っている人がいるかは別の話です。
ここは、自分で調べようがありません。中を知っている人に聞くしかない。エージェントを使うなら、求人を紹介してもらうためというより、この”分母”を埋めるために使うほうが実用的です。「その部署、実際の残業はどれくらいですか」は、聞けば答えが返ってくる質問なので。

年収の数字だけを見て迷っていたときより、判断がはっきりするはずです。
そして、その3分をやった人だけが「額面は下がったけど、これは得だ」という判断を、自信を持ってできるようになります。

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